男は馬之助

あの時も雪は降っていただろうか。
もう25年くらい昔になる。
「NOW」という弱小プロレス団体があった。
大ブームを巻き起こした「nWo」のパクリではない。
こっちのほうがいくらか早い。
早いがそれだけで人気が出るわけでないのがプロレス界の複雑な動き!(一騎風)
もう名前も思い出せない、地味ーな人たちが、まったりとプロレスをしていた。
途中から参加した上田馬之助がエースになっていた、と言えば何となく通じるだろうか。
通じない方は、以下の文章は全くのゴミです。
他のページに行かれたほうが時間の有益な過ごし方です。
一応警告。
で、話を戻すと、馬之助が維新力と「包丁デスマッチ(リングに包丁を持ち込んで戦う)」やったり、ミル・馬カラスに変身したり(ミル・マスカラスの覆面をかぶっていた)、タイガー・ジェット・シンと黄金タッグを組んだりしていた。
まあしかし、それだけで人気が出るわけでないのがプロレス界の複雑な動き!(というか、あたりまえ)
初めて「NOW」を後楽園ホールに観に行った日(ガラガラだった)、「NOWは解散します」というアナウンスがあった。
その日のことはそれしか覚えていない。
あとオークションで馬之助の竹刀やら大矢のザ・タイガーの覆面とかが売られていたこととか。
自分でもなんで「NOW」なんか観に行ったのか解らないが、もっと解らないことに、
「最終戦を観に行こう」
と思ってしまったのである。
場所は房総半島の名も知らぬ海岸。
ローカル電車と路線バスを乗り継いで行くと、砂浜にリングが設置されていて、周りにブルーシートが張られている。
張られているのはいいが、一段高い道路から中身が丸見えだ。
というより、むしろそっちのほうが後楽園二階席みたいな位置で、一番見やすいんである。
それでも私は料金払って会場入りした。
試合はまるで印象に残らない。
「ジャイアント馬場と身長が同じだと言い張る韓国人」
「全く知らないキックボクシング組織のチャンピオン」
らが出て来て、「あ〜何かやってるな〜」、と思わせるには充分なエンゲル係数の高い試合が続いた。
曇り、であった。
メインは、馬之助、シン組対ケンドー・ナガサキとだれか。
これがまたあっさり風味のまったり鍋だったのだが、あっさり過ぎて何も覚えていない。
しかし、事件はそのあと起こったのだ。
勝利したシンが、観客(少しはいた)に「アリガトウ」みたいなことを言って、客席とふれあい始めたのだ。
猪木を路上で襲い、客をも殴る「狂虎」のシンがである。
客もここで興奮しなきゃどうする、と「シン!シン!シン!」とコールして、シンと馬之助に触りまくりである。
私も節操ないから、触りましたよ。
おもったよりすべすべしていて、汗でひやっとしていた。
やがて二人はブルーシートをくぐって、姿を消した。
私はふと、シートをめくってみた。
そして見た。
上田馬之助と、タイガー・ジェット・シンのふたりが、チルアウトのためなのだろう、並んで砂浜を走って行くのを。
その背中が、色んなものを背負いすぎに見えた。
その時、海に雪が降っていたような気がする。
やがてふたりは踵を返してこちらに戻ってきて、私はシートを下ろした。
ちなみに、この試合を報じた「ゴング」に、ちらと写っていたりする。
そんなことも知らずに、帰りの夜汽車の中、私はひとりきりだった。
しばらくしないうちに、精神病院に入院した。
病棟で馬之助とシンの勇姿を思い出すことはなかった。

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