旅の仲間・大阪往還記(1)

ここはまだ長野県である


 去る霜月二十三日、大阪へ行って来た。
 高速バスの旅である。田舎からは六時間かかる。上の写真は、したがってまだ出発前のもの。朝6時はまだ暗い。何でそんな朝っぱらから出かけるかと言うと、直行バスが日に二本しかないのである。文明は遙かに遠い。いや一応田舎にもサブウェイありますよ。サンドイッチ屋の。前日サンドイッチを買ったら、ちーさんがすでにおにぎりを作っていた。どうも僕は浮かれていたらしい。この写真の時点で気付いたのだが、自分個人の財布に小遣いを補充するのを忘れてきた。それをちーさんに何となく言いそびれて、現在に至る。また怒られるだろうか。怒られるな。
 風邪も治りきっていないのに、午前4時起きはさすがにつらい。
 それでも、日の出の「丸」を久しぶりに拝めたし、太陽の塔も車中からはっきりと見た。『かの子繚乱』を読んでいたちーさんは、えらく感動していた。「あれはウルトラマンからヒントを得たんだよ」と僕が言ったら、何となく無反応だった。軽蔑されただろうか。軽蔑されたな。
 梅田に着いたのは昼時。大阪出身のI君と待ち合わせる。
 ちーさんの荷物が異常に重い。「重くない? 大丈夫なの?」と僕がしつこく言ったのにちーさんがキレて、よせばいいのにI君の前で喧嘩する。
 ピザ食べて落ちつく。
 中崎町の「葉ね文庫」へゆく。
 予想以上にディープな本屋だった。詩短歌俳句川柳。あ、ピラミッド順には言ってません。
「『スロー・リバー』売ってますか?」
 と店主さんに訊いたら、
「売れちゃいました。早かったですね」
 と笑顔で答えてもらえた。嬉しいようなさびしいような。僕は生涯自分の本が店頭に並ぶところを目撃せずに終わるのだった。めでたしめでたし。めでたくないな。とりあえずI君とは、「ハヤカワ文庫のサイズが変わったのが許せん」ということで意見の一致をみたのでめでたい。としておこう。あと、店主さんに「修学旅行みたい。うふふ」と言ってもらえたのも。いや僕ら全員四十代なんすが。
 葉ね文庫さんに書き残す句を考えていたら、体調がぐらぐら悪くなってしまった。くり返すが朝4時起きはこの歳につらい。
「体調が悪いんだ」
 とちーさんに言ったら、
「なんでそれを早く言ってくれないの!?」
 とキレて、葉ねさんを出て入った喫茶店にて、よせばいいのにI君の前で喧嘩する。
 I君は気まずそうに「ケーキ食べませんか。ケーキ」と言ってくれた。ごめんよ。I君もちーさんも。
 気持ちが悪いので近くの中華料理屋に入る。ラーメンが350円で、あとの麺がほぼ400円という奇蹟の店である。さらに奇蹟なことに、店主の老爺が「え? 注文、なんですか?」と耳すますドリフのコントを現実化してくれる。関西なのに。その上「お手洗いは・・・」と訪ねると「あんたら葉ね文庫さんから来たでしょ。あそこのビルですよ」と慧眼すぎる。なんでばれたんだろう。いかにも詩型をやってそうな人相ってあるのだろうか。修学旅行だからか。テレビで御嶽海が白鵬に負けるところをしっかりと見るが、今思い出すとあれはブラウン管だったような気がしてならない。
 体調が悪いせいか、ラーメンが熱かったのにおいしいというやはり奇蹟。良心的なお店なので、葉ね文庫さんに行かれたかたは、ぜひ隣の中華料理屋さんに入ってみよう。
 動物園前駅に移動。
 予約したホテルが思っていた場所にない。ちーさんと、よせばいいのにI君の前で喧嘩する。
「君ら、テンパると喧嘩するのどうにかならないのか」
 と流石のI君も世界記録更新の距離まで匙を投げた。
 なんとか宿に着いて、I君と今日はさようなら。
 ちーさんとふたりで、部屋にのびる。
「つかれたねー」
「つかれたー」
「けんかしたねー」
「けんかしたー」
「あしたもよろしくねー」
「よろしくー」
 何のことはない、ただの馬鹿ップルである。
 ところで僕の鼻は両方とも完全につまっているぞ。口ポカンの花田美恵子さん状態。たとえが古いな。明日は本番の句会。さあて、どう戦うかな? というところでつづく!

 今、書いている時点でまだ左鼻がつまっているのだが、人間にとって「今」とは何なのだろう。

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