リングワールド(日常編)

わたしへ、私の充満

 さいきん烏賊のことばかり考えている。
 と言うのは嘘で、全く烏賊のことを考えていない。
 と言うのも嘘で、たまに烏賊のことを考えている。

 自分にとって烏賊とは何かと思うこともあるが、おおかたはイカリングのちぎり方である。
 人にとって下品と思われる恐怖に耐え、しかし咀嚼力が弱ければ永遠にイカリングは体内に入ってこない。
 そもそもイカリングはちぎったらいけないものなのではないか。あれはあれで完結した存在で、咀嚼もせずに体内に入れるものなのだろうか。だとしたら宇宙が自分の中で溶解してゆくかもしれない。
 ずいぶんと油に満ちた小宇宙だが、噛み切ると塩と化学調味料とタンパク質そのものが白い断面をさらしている。

 これが真実の小宇宙なのかもしれず、してみると食事者の私は絶対に近いのかもしれない。

 だが私がそこに辿りつくことは、一生ないのだろう。

 三日前に作ったイカリングに、塩味をつけるのを忘れた。

 イカリングは破壊されなかった。

 だから、宇宙は宇宙としてありつづけ、他人はもっと私に感謝しても良いと思うのだが、ポストに一通の手紙も来ない。

 それでいいのだと言い聞かす。
 私は烏賊に囚われすぎた。
 ニシザワショッパーズで白い烏賊の塊を見ないふりをするまでに。

 白は純白ではない。(この世に純白などと言うものがあるとして)。

 だからきょう一日の悔いとして、あんなことをしなけれなよかったと跳ね起きる魘夢のつづきとして、この生物だったものを切ろう。白さは、二十年前にやって来たのだから・・・。

 とりあえず、さっき冷蔵庫に烏賊がないことを確かめて、それが当然であると祈るように思った。

 この世界にみちるすべてのかなしみを、想像の円環の中に・・・。

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