ホワイト・アルバム


料理の三角形を、三角定規で

 子供のころの大抵の物に不思議な物はなく(不思議だと気づく知識量の決定的な欠落)、それでも主観として謎に満ちた物体はたくさんあった。
 
 中でもグラタンである。
 
 あれは、何と言うか、不思議な食べ物だった。まず表面がカリカリとしている、でスプーン(先割れ)を突っ込むとぐにゅり、と粘質に捕まり、噛み締めると、ぎゅうううーっと塩味の刺激と訳のわからない身震いがくる。

 そんな下手な食リポはさておき、謎だったのは、グラタンの、あの「構造」はどうやって成っているかだった。

 あの表面カリカリ、中身ぐにゅり、はどう言う仕組みで出来上がっているのか。考えれば考えるほど謎は深まっていくばかりだった。もはやグラタンは驚異を通り越して恐怖にさえなっていた、と言うのは言い過ぎだが。しかし作った人間に訊いてみればよかったのに、昔から人に物を訊けない人種だった、私のことです。

 さすがに長ずるにあたって、「ホワイトソース」なるものを焼く、と言う叡智を会得した。
 だがそれと同時に新たな恐怖が襲うのであった。

 いざ作るとなると。
 ホワイトソース、ダマになるらしい。
 ホワイトソース、焦げるらしい。
 そんな情報が入ってくる。全く失楽園である。どこが。

 さておきこの歳になって、初めて「グラタン」をひとりで作ることになった。理由は省くのでいろいろと想像してみてください。

 で、ホワイトソース怖いから、ネットに頼った。中途半端に現代人の悪い癖。
 参考にしたのは以下のサイト。


 ご覧いただければお分かりの通り、「小麦粉:バター:牛乳が1:1:10」と書いてある。

 バターを量ったら27gだったので、小麦粉も27gに。牛乳は270ccにした。いい加減なのか正確なのか、自分でも正確なところはいい加減に放り出している。

 とろ火で炒めると、おお、確かにルーっぽくなってくぞ。

 いよいよ牛乳である。恐怖の「ダマ」だ。ダマ田ダマ夫。だから何だそれ。

「温かいルーに冷たい牛乳を入れるのが一般的だが、焦げやすい」

 うわ来た! 強豪の「焦げ」である。

「だが、温度差があれば良いのであって、ルーを冷やして、温めた牛乳を入れると失敗しない」

 おおおおお! その手があったか! この人コロンブスの卵と言うも愚かな天才じゃね?

 早速やってみる。濡れ布巾の上に鍋を置いたが、いまいち冷えが足りないような気がしたので、ボウルに氷水張って、鍋を湯煎の逆状態、って言うかこれなんて言うか語彙足りないんで言えないけど、通じるよね、そんな感じで熱を取る。

 そこへ軽く温めた牛乳投入(豆乳、って書くところだった)。おおおおお! ホワイトソースになってる! どうでもいいけど予測変換でホワイトベースって出てくんのどうにかしてほしい。

 あとは塩、胡椒、ナツメグ加えてと、具に混ぜてチーズ載せて焼くだけ。

 夕食なのに午前中に出来てしまった。何時間かけるつもりだったんだ。

 で、食べましたよ。

 ぎゅうううーっと、塩味と身震い。子供の頃に感じたあれほどじゃないけど、確かにグラタンだよ!

 パートナー曰く、
「ちょっと、しょっぱい?」
「いやあのこれはねぎゅうううーっとした塩味を出したくて塩分を多めに」
「でも、美味しい。グラタン、だーい好き」
 うむ、生きていて良かった。夏までは生きていようと思った。話題の太宰です。

 あとでフォロワーさんから「ソースは冷凍できますよ」と教えてもらった。奥が深い、グラタンの道。
 
 ところで、子供時代にグラタンを作ってくれた人は、何であんなに塩利かせていたんだろう? 別に謎でもないが、謎を常に設定しておきたいのもまた、人間的な営みなのだった。
 

コメント