タクラマカン

明日に今日を決定する権能はない(か、ある)
 

八月二十一日

 夕飯後、夕焼けが綺麗だったが、昨日のほうがもっと綺麗だった。

 実家の書庫に本取りに行く。ヴァン・ヘイレンを挿したまんまの車はどこへ行く場合も、〈the Seventh Seal〉のイントロの時に目的地へ着く。何の因果か。

 母親が「千春ちゃんが『一時間以内に着いてなかったら電話ください』って言ってたけど」と七回くらい繰り返す。

 千春さんからはDMが届いてる。「帰って来てね。帰って来てね」。

「何かあったんでしょ」

「人生いろいろあるけど、何もないよ」

「あったんだね」

「本を取りに来た」

「本のことは置いといて……」

「だから、本を取りに来た」

 謝ったほうがいいのかもしれないが、謝らなかった。誰に対しても。自分に対しても。

 持って来た本は『リープ・イヤー』『タクラマカン』等を含み、全部で十冊。団地の階段で、「本だけは読んでます。他に読むものはネットくらいしかないので」と言うつまらないセルフプロデュースを思いつく。

 玄関を開けると、千春さんが言った。

「ずいぶん借りて来たねー」

「借りたんじゃない。僕の本だよ」

「そっかー。よく帰って来たねー」

 と言ったあと、今は「頭痛がして」と氷枕当ててる。

 今日はそれだけの日。それ以上のこともした。トランクスを二枚も買った。あるいはそれ以上のことをしたのかもしれない。それだけの日。


  轡ごと牛が巨大になる曜日  大祐

    *轡=くつわ

コメント