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経験とは、危機を克服することである——イーフー・トゥアン |
九月十七日
いやーそれにしても死にたいっすねー。
などという文が如何に人を傷つけるか、あるいは自分を傷つけるか(自己を免疫しようとしてアレルギーを起こすか)、理論上は承知しているつもりだ。
それでも、気がつけば「死にたい死にたい死にたい」と呟いている。
それがどんなに粗雑な行為か、あるいはこうして「書く」ことで他人の心を揺らがせてしまう可能性を持つか、それも多分ではあるが了解している。
と、いうか、ダサい。
今頃「オシャレに死ぬよー」とか、ダサすぎる。もうそんな時代じゃ無いんだよー、とはみんなはっきり実感してるでしょ? いやオシャレで死ぬ人ばっかじゃ無いんだけどさ。あえてダサいとかオシャレとか考古学級の単語使ってみるけど。
だけど自分のダサさがたまらなく嫌いになる。「ここで首吊れるかなー」と思う時、自分の卑劣さに吐き気がする。別に「生きろ。」とかジブリというか宮崎駿っぽく言いたいわけじゃない(あのコピーに糸井重里が絡んでいたのかということにも別に関心はない)、ただ、若い人は知らないかもしれないが、その昔、『完全自殺マニュアル』という本がちょい流行ったことがあったのよ。まあ、自殺のやり方がマニュアル形式で書いてあって、最近何かと取り沙汰される90年代鬼畜カルチャーの範疇に入らないこともないやつ。基本、「いざという時いつでも死んじゃえるってことを救いに生きていけ」って表では言ってたけどね、悪いギャグでしょ。確実度★★★苦痛度★★とか「わかってるでしょ俺」的な悟達? みたいなの。何もわかっちゃいないよ。若書きだなあ、と今にしてみれば思う。
僕も若い時は若かったから(進次郎構文)、馬鹿だったから、あんまり詳しくは書かないけど、電気仕掛けで行っちゃおうと思って、本の通りコードとかタイマーとか細工してたのよ。電線弄ってたら、「ばちっ」って火花飛んで、その閃光とつんざく音と匂いに流石に引いて、っていうかびびって、やめたけど。20年前。川柳はたぶん、はじめてた。救いにならなかった。
救いとか救われるとかの前に、単にそういう馬鹿だった。だからある「善人」で通ってる流行小説家が自作中の古本屋に「自分を殺したり人を傷つけたりする本は絶対に置かない」っていうような描写をしていて、僕はその作家を心から軽蔑した。今もしている。まあ宮部なんだけどね。
死ぬのは、ほんとにくだらない。
だけどそれに偉そうな説教垂れるのも、本当にくだらない。
〈だから、神様は嫌いだよ。〉
って書いたのは安吾だったと思うけど、そういうことだよ。これ「不良少年とキリスト」だったかな。とにかく薬中が太宰の自死について書いたやつで、このライク・ア・ローリングストーン感半端ないので読んでみてください。簡単に入手できると思います。まる。だから、神様は嫌いだよ。このセンテンスが書ける人間じゃない人間、作品なんて衆目に晒すもんじゃない。
僕は死にたくてタイマー式感電装置作りかけたし、今も隙あれば縊死のこと考えてる。それは全く、微塵も、偉いことじゃない。っていうか最低だ。だけどさ、救い、ってそういう最低の地点からしかはじまらないんじゃないの? って倨傲にも思う。最低だ。石投げてください。石投げられる人だけね。
『完全自殺マニュアル』の鶴見済、この書を著す少し前、まだ面白かった頃の別冊宝島(信じられないがそんな時代もあったのだ)のプロレス本用に、リング屋として全日本プロレスの巡業に参加する、という体験リポートを書かされていた。
東大出の鶴見青年にプロレスへの興味なんかこれっぽっちもなく、ヘナヘナだったんだろーなー、とか伝わってくる文章だったんだけど、素顔の三沢タイガーのお世話したり、苗字が苗字って言うだけで「ゴロー」呼ばわりされたり(どうせ永源界隈からだと邪推する。あ、鶴見五郎ってレスラーがいたのです、念のため)、当然のごとく元子さんから怒られたり、と完璧な全日ライフを満喫した様子。ゴローくんはその幸福を幸福として満喫はしてなかったみたいだけど、まあちょっと悪くなかったかな、感は読んでいてわかった。
そのままリング屋就職しちゃえばよかったのに。『自殺マニュアル』なんか書かないで。いや全日が楽園とは程遠いとこだったってわかってはいるけどね。でもまあ、さっき書いたみたいに、救い、って実はそういうとこに転がってたりするんじゃないかと。
今のゴローはあんまり知らないけどたぶん生きている。僕はたぶん結構しぶとく生き続ける。ちっくしょー、苦しいよ。苦しいけど、あえて鈍感になって言うけど、みんな必ず死ぬんだから、わざわざ自分で死ぬなよ。人間なんてどうせどっかが屑だ。
あと、その別冊宝島、裸の馬場さんが背を向けて葉巻ふかしてる写真、最高ですよ。生きるってそういうことだ。だからとは言わない。ただ、生きろ。自分。
トラックに太字で「ね死」と書いてある 大祐
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