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はじまりの無 おしまいの有 |
十一月十五日
NOKKO「人魚」が千春さんのiPadから聞こえてくる。
昨日の昼、「ねえねえ、この歌知ってる? うううううううめー ううううううたー ううううのうううでー うううにうううたー」
と鼻歌まじりで情報を伝達しようとしてくれたのだが、わかんねーよ!
「……抱いて抱いてだあーいて」
「あ、それならNOKKOの『人魚』だよ、たぶん」
「きのこ?」
「のっこ! レベッカの人。あなたも昭和生まれなんだから知っておいてください! 平成連中に馬鹿にされるよ! もうされてるっぽいけど!」
「『ピン子』?」
「『人魚』! 僕の滑舌が悪くてごめんね! 昭和の男は滑舌悪いんです! 天龍とか長州とか小橋とか! サンプル偏っててさらにごめんね!」
「わかった。調べてみるね」
というわけで昨夜千春さんの部屋に行ったら、「アカシアのあーめーに」と流れているのでああ見つかったんだな、と思った。「名曲でしょ、これ?」と僕が作ったわけでもないのに威張ると、曲が終わる。そうするとまた「アカシアのあーめーに」が始まる。うん? と思っているとまた「アカシアのあーめーに」。
「千春さん千春さん。もしかして無限リピートで聴いてる?」
「うん。いいよねー、抱いて抱いてだーいーてー」
で、今朝の食卓にまた「アカシアのあーめーに」が流れている。
「いや、ごめん、ちょっと、いくら美味しい鮭パスタでも、24時間食べ続けたら、胃もたれがするよね? そういうことなので」
「そー? じゃ変えていいよ。朝っぽいの」
というわけでアルバート・アイラーに変えさせていただいた。それもどうかとは思う。
千春さんは鼻歌で「抱いて抱いて抱いてー」のところを歌いつつ卵焼きを食べている。しかしこの無限リピート、『時をかける少女』の主題歌としてはアリだ。
フジテレビでドラマ化されてたやつ。内田有紀が主演で、駆け出しの頃の安室奈美恵がその妹役だったやつ。内田と安室が姉妹って、遺伝子すごすぎるよね。
で、筒井康隆先生が住職役で出てたんである。まあ、はっきり言って、演技力は当時の安室ちゃんの1/1000くらい。誰がどう読んでも小説は天才だけど、天はそこまでマルチな才能を与えないです。中島らもさんたちが「はっきり言って演技は素人です」みたいなことを言っていたのがこの辺を指していたのかもしれない。スタニスラフスキーシステム云々以前に、そりゃニューフェイス落ちるわな、という奇演なので、観られる機会のあるひとは観てください。はっきり言うと、僕は内田がかなり好きでした。どうでもいいカムアウト。
それはともかく「時かけ」(「時そば」かっ、とオチ研の友人に突っ込まれた)、これ「筒井さんの作品」なんだろうか。原作、非常に適当に書いたジュヴナイルな感じとしか思えなかったような……。まあ、筒井康隆の女性蔑視と表裏一体の女性崇拝とか、変な感じでにじみ出てるけどさあ、微妙というには小綺麗にまとまっている小説。自分、「シナリオ 時をかける少女」先に読んでしまったせいかもしれない。こっちはいい意味でひどい小説です。
筒井先生もなんか「時かけ」には複雑な感情を抱いていたような。そもそも流行ったのって、NHKの「タイムトラベラー」とそいつをベースにした説明不要、原田知世の角川映画のおかげ(大林宣彦監督のおかげとあんまり言われてない気がする)である。どう考えても。
だから「シナリオ 時をかける少女」はあんな風になった(もうみんな読んでること前提ね)んだと思うし、知世映画(大林映画とはあんまり認識されてない)の沸騰期、セーラー服の少女が「お湯かけて お湯かけて お湯かけて〜」と歌うカップ麺の便乗CMがあったのに対し、「パロディ作家の作品をパロるとはいい度胸だ」みたいなキレ芸をしていたけど、なんか切先鈍かった気がします。すいません偉そうなことを言いました。
ともかくも、内田有紀はTENKAを取り損ねたわけだが、まあもう一度観てみたい気は少しだけする。ていうか筒井先生の演技だけでもまた拝見したい。筒井先生ほどフロイト的な愛憎を向けられたアイドルって、少なくとも20世紀日本の作家にはいないっすよね。(いやいる、と言う方も絶対いるだろうけど)でもその愛憎が「膝カックン」されるのが「時かけ」で、だからこそこう何度も映像化される気がする。
とりあえず、うちの時をかける少女(42)はまた「そのあーい そのゆーめ そのむーねが 消えてしまああった」と歌っているので、僕はもう、未来へ行きます。ってもう現在2021年、立派な未来なわけだが。
五次元にすらあるまじきジャズ喫茶 大祐
追記:そんな人間が伊那市で川柳講座やります。→https://geibun-iaca.wixsite.com/mysite-1
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