サボテンとバントライン


愛ほどに欠損を欠損し


 十一月十六日

 アダム・ドライバーって必殺技みたいな名前だなあ、と思って、

「アダムッッ! ドライブウアアアアアッッッ!!!」

 とシャウトしていたら千春さんから「諦念」を湛えたしずかな白眼視をされていた。

 というわけで名前というのは重要だ。みんな大好き『パターソン』はそういう映画だったと言える。(すさまじく適当なまとめ)。

 一年位前に、雑貨店で投げ売りされていたサボテンを買った。ずんぐり丸々として、その分この世に抗ってる雰囲気がある。サボテンの「ボンちゃん」と名前をつけた。なんの捻りもない。

 名前つけて世話してる甲斐あって、ボンちゃん、やや湾曲して育っている。愛情のなせる歪みであろう。だけど基本素直な子です。

 このたび、同じ雑貨店で投げ売りに売れ残っていたサボテンちゃんを買った。とんでもなく安い値段。いくらかは言わない。

 すっとした姿勢の美しい子。種類を見ると「般若」と書いてある。じゃあ名前は「ニャアちゃん」だ! 再び捻りのないネーミングする。

 ボンちゃんとニャアちゃん並ぶ。二人は同じ雑貨店で、幼馴染だったのだろう。もしかしたら仄かな恋心が芽生えていたのかもしれない。植物だけに。しかしニャアちゃんツンデレ、というよりツンツンで、触ると痛い。サボテンですから。ボンちゃんの愛を、ニャアちゃんは素直に受容できないのだった。

 そこで、ニャアちゃんを僕の部屋に持って来て、仕事から帰った夜にまたボンちゃんの隣に置くと、あら不思議、恋人たちはこんな静寂な夜に互いへの想いを深めるのでした。でもお互いを抱きしめられない。サボテンのジレンマ。そんなものはない。

 などという遊びをしている僕もかなり病気だ。ちなみに「ツンデレ」という単語は発話する人間の「愛されたいという欲求の発露」が強すぎてあんまり好きじゃないです。

 でもニャアちゃんが、ボンちゃんに対して「この土手カボチャ!」とか冷たくしてんのに、久しぶりに会うと「ボ……ボンって、呼んでも、いいの……?」って頬(ないが)赤らめてるとこ、すごく燃えますよね。萌え、という単語もあんまり好きじゃないです。ツンデレとか萌えとかの言葉、このところ判然と目にすることが少なくなって良いこと良いこと。自分はそういうオタクです。読めばわかるか。

 名前とはかくも重要なのだった。『言葉と物』を引こうとしたが、フーコーはそんなことは言っていない。おそらく。

 

  数学のイブとアダムが分離する  大祐


 おまけというか告知。ところでそんな生活をしている伊那市、川合の川柳講座やります→https://geibun-iaca.wixsite.com/mysite-1

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