気球に乗って五週間

 

重力が、ただ、在りさえすれば

十一月三十日

 依存とは対象に同化することを希い、かつそれをおそれる現象である。この同化が果たされないからこそ人は自他の溶解を希い、果たされるからこそ自他の消失をおそれる。

 この因果の結合は自在に組み合わされる。この同化が果たされないからこそ自他の消失をおそれる、でもいいし、同化が果たされないからこそ同化が果たされる、と言い換えることもできる。

 神林長平は書いていた。

「あなたがいて

 わたしがいる」

 それだけの簡単なことに僕はなんで気付かないでいられるのだろう。

 熱気球が宙に浮くとき、熱い空気が袋に満たされるとき、そこに人は「いる」と言えるだろうか。人は気球と一体化し、そして一体化をこばまれ、そのために一層の墜落をおそれる。あるいは希う。

 だから、人は気球に乗らなくなったのだった。ある寓話。

 

  火のなかへ気球づくりの村の地図  大祐

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