銀河ヒッチハイク・ガイド


物は記憶に宿る

 

十一月七日

 昨日喧嘩してしばらく、「ごめん」とTwitterのDMが来た。

 いや5メートルも離れてないんだから直に言おうよ、千春さん! というわけで南信州のドライブに行くことに。

 テンションが妙に上がってしまい、夜遅くまでドライブ用のプレイリスト作っていた。ヴァン・ヘイレンの「JUMP」入れるのはまだいいとして、Wink「愛が止まらない」収録する自分はどうかしてる。落ち着け。

 というわけで今朝7時半まで眠っていたら、「7時には起きると言ったじゃない!」と怒られる。「すまんすまん」と笑って誤魔化す。

 弁当、二人で作る。鶏胸肉の雉焼き。高菜ふりかけのご飯。お茶、「冷たいのがいいな」と言ったら「早く言ってよ!」と湯を沸かしていた千春さんに怒られる。すまんすまん。もう本気で謝ってないですね。

 行き先は高森町の山中にある「哲学の路」。なんだか京都にもあるような……と思ってレビュー見ると「京都は素晴らしい」。何かが混線している。それでもまあ、誰も行かなそうだし、走れればいいかな、と一ヶ月前に買った中古車のハスラーを出す。

 付き合って15年になるけど、こんなドライブははじめてだ。

 テリオスキッドには15年乗った。前にどこかで書いたと思うが、この間の「自動車の進化」にビビることしきり。うわースマホ繋いでナビしてもらえるし音楽も聴けるんだーとただの田舎者になっている。いや田舎者は車がないと米も買いに行けないのですよ。テキサスのノリです。これもどこかで書いたネタな気がする。

 というわけでiPhone 全開で走る走る俺たち流れる汗もそのままに。決起してません。わかりにくいボケですね、はい。

 走るのが、気持ちよかった。

 つい最近まで、車の運転が「苦痛」でしかなかった。これは自分が何か変わったことなのかもしれない。

「ギャラクシー・エクスプレス」聴きながら(デートにそれ流すな)、流れ去る空間をただ感じていた。なんだこのノリ。

 千春さんもなんかノリノリで、「コンビニ寄って。あ、ジュース買ってあげるね」。

 ツンデレかあなたは。

 しかしナビというのは恐ろしいもので、巧みに高速道路に誘導しようとする。金ないし時速百キロは流石に走れないよ。車は急に止まらない。愛は止まらないかもしれないが。すみません下手なボケです。

「哲学の路」は誰もいなかった。まあ、穴場です。ほんとに何もないけど。寺が一軒。その隣に「仏画製作所」の看板。

「フランスの絵って、こんなところで描くんだね、すごいねー」

 って千春さんの素晴らしいボケが炸裂したのはツイートもしてしまった。

 弁当食べる。雉焼き、おいしかった。千春さんがキットカットくれた。茶はボトルの蓋が緩んでいて全部こぼれていた。

 ブンゲイファイトクラブの原稿を読み直そうとして、「なんでここまで来てそれなのー」と拗ねられる。すみません私もそれなりに忙しい身なのですよ。でもすまんすまん四国の清流。それは四万十川。本当に適当な人間である。

 帰り道、ずっとこれからのことを話していた。峠から見る南信州は綺麗だった。川柳をどう続けていきたいのか、収入はどうするのか、自分は・千春さんは何がそもそもやりたいのか。千春さん、少し泣く。

 正午を過ぎるともう日が暮れる。みたいなことを古井由吉が書いていたような気がするが定かではない、というか神様みたいな人をこんなブログに引用してすみませんすまんすまん。いやほんと古井由吉は僕にとってある意味神なのです。ほんとに。「好きな・影響を受けた作家」ってのはもっと別にいるんだけど。

 みたいに脱線しながら、しかしナビに従って伊那に帰ってくる(どうでもいいが最近の子は「決められたレールの上は走りたくねー」ではなく「決められたカーナビに囚われて走りたくねー」とかロックするのだろうか。余談)。

「たのしかったねー」と千春さん。

 家に帰り着く頃、ちょうどプレイリストが終わりかける。昨日頑張ってよかった。でも頑張ったので眠い。今夜も早く寝ますね。千春さんはもう眠った。あなたは今日、ちゃんと泣けてよかったね。心からそう思う。僕は何故か泣けないままで明日も仕事だ。

 ブンゲイファイトクラブ、2回戦を準備してある。準備というのはいつも楽しい。あなたと生活していると、いろんな準備ができて、僕はこんなだけど幸せだよ、とDMしようかと思ったけどやめる。また明日ね。

 

  関所にも海王星のある暮らし  大祐

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